● 愛育茶譚(愛育総説/愛育茶談) (あいいくさたん)

  (桑田立斎作。嘉永6年(1853)刊)

*桑田立斎(りゅうさい)は、文化8年(1811)生まれ、慶応4年(1868)7月27日没。越後新発田藩士・村松喜右衛門の次男。越後の人で、江戸で坪井誠軒に医術を学んだ後、深川で小児科を開業した。種痘の実施や啓蒙活動に尽力した。安政4年(1857)に幕命により蝦夷に赴き、数千人に種痘を施した。生涯に「十万児牛痘接種」を目指したが、念願を果たさずに病没した。
*『愛育茶譚』は、嘉永6年(1853)の刊行で、表紙見返しには、本書について、「本書は小児養育の真理を万人が理解するためであり、近年は牛痘が行われて大厄を免れるようになったものの、親の子育ての間違いから種々の病気になったり、早死にするのは嘆かわしいことである。だから、本書を熟読して、目先の愛(姑息の愛)に溺れたり、子孫を害するようなことがあってはならない」と戒めている。

○本文より抜粋・要旨

・ 都会では名医が揃っており、高価な薬も満ちあふれていて一つとして不足することはない。しかし、医薬が乏しい田舎の子どもの方がかえってよく育つのは、その気候・風土・習俗の違いによるばかりではなく、その生育する自然の養いによるものであろうか。

・ 貧家の幼児は号泣しても大人が構わないために、自ずから手足を動かして健やかに育ち、また自然三分の飢寒を得るために生理にかなってよく育つものが多い。しかし、おむつは頻繁に替えてやり二便の汚湿に触れさせぬように注意せよ。

・ 幼児は11~12カ月頃より常に立ち歩きを練習させ、自分で立てるようにさせよ。世俗ではこの時の立ち歩きは足に良くないというのは俗説であって、この時に歩くことを習わせれば、3歳頃には2里程の距離を歩かせても草臥れることはない。子どもが駆け回ったり踊って跳ねたりすることを好むようになれば、自然と
健康になる。
*本書はこの部分だけでなく随所で「健康」という言葉を使用しているが、当時、あまり一般的でなかった「健康」という言葉を頻繁に使用している点は興味深い。緒方洪庵の『病学通論』(嘉永2年)の影響であろうか。

・ 人が大勢集まるような劇場などへ幼児を連れて行ってはいけない。しばしば「脳病」を引き起こす原因となる。

・ 美悪も分からない子どもに美麗・高級な衣類を着せるのは、単なる親の愛玩の戯れであって、それが子どもの生涯の徳を損ない、無知無心の時から奢りを身につけさせる悪い習慣である。

・ 人間の母乳に近い効能を持つものは牛乳である。しかし母乳に比べて牛乳は濃いため、最初のうちは半分は水で薄めて与え、その後は三分の水で薄めて与えるようにせよ。

★本書は、『江戸時代女性文庫』57巻、『日本衛生文庫』2巻に収録されています。架蔵本の原本で読みたい方はデジタル複写をお申し込みください。